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「時の彼方で」 第十二話その2 時の彼方で

 レストランの中を飛び跳ねるようにしながら美香が入ってきた。

「もうおかあさんたら急なんだから、戻ってこいって。人使いがあらいんだから」

「ごめんごめん。どうしても会わせたい人が見つかったから・・・」

テーブル、食器を弁償しますと、店のマネージャーの所に行って帰ると

「課長~~」と美香が大泣きしながら抱きついてきた。しばらく言葉はなかった。

「安田社長、こういうことなのでここは私たちだけにして貰えますか?」

「承知しました、当社の恩人とは山中さんだったんですね良かったですね見つかって!」

「内田、事情はあとで説明する、ここは僕らだけにして貰えるか?」

「もちろんですよ、何かやまさんに出し抜かれる予感もするけど、ごゆっくり」

レストランには懐かしい僕ら三人だけになった。

「課長、ずいぶん探したんですよ、鶴ヶ島の住所も当たってみたけど他人が

住んでたし、会社も名前が変わっちゃって移転したとかで・・・それっきりで・・

すき焼きにも帰って来てくれなかったし、もうかんかんなんだから!」

「20年ではまだ時効にならない?」

「あったり前です!一生許しません、ね、おかあさん!」

「そうね、よほどの事情がおありだったんでしょうね・・・」

「ええ、そうなんですよ・・・」

「しかし、よく短時間で大企業を立ち上げましたね!!」

「そうなんですよ・・・美香が・・・この子にそんな才能があったとは

信じられないんですけど、自分の退職金を株で運用して、瞬く間に

数億円にしちゃって、それならと私の主人の保険も一部任せてみたら

あっという間に数十億になってしまって、そんな大金持ってても

仕方がないから、主人の信頼できるお友達に婦人服の小売店やってる

さっきの安田さんに相談したんです。それで小さなお店を開店させたのに

やっぱりこの子がどんどん新しい事業を始めて、今に至ったんです」

「そっか、美香ちゃん、凄いね。大実業家じゃないか!!」

「課長、耳貸して!あのね、課長の予言、半信半疑だったんだけど、

一番最初の吉田産業がホントに10倍に値上がりしたのをみて確信したの・・・

それであとはあのノートに書いてあるとおりにしただけなんだよ、

そしたらこんなんなっちゃった、あはお母さんには言ってないよ、極秘って

書いてあったから」

「うんうん、役に立って良かった。ね。嘘でも予言者でもなかったでしょ?」

「課長ITの時代来るからって。チャンス待ってたんです」

「あれ?ETと間違えたんじゃなかったっけ?」

「あはは、いじわる」

「見て、このノート」

僕が書き残したノートは真っ黒にすり切れてぼろぼろになっている。

「忠実に守ってくれたんだね」

だとすれば僕の投資の失敗も成功も全て安値、高値が書いてあるから

神技の様に増え続けたのだろう。

「でも課長の予言も昨日まででお終いなんだよね、あとは責任取って

うちの会社の社長になるっきゃないね」

「あはは、そういうことか、まいったなぁ。一緒にやろうよ!!」

「私なんか馬鹿だからそのノートが無ければ何もできませ~ん」

「手取り足取り教えるよ、経営を。任せて!婦人服のネット販売の社長が

一番ふさわしいんじゃない?」

「う~ん」

「任せておけって!!ちなみにそのノート駆使していくらになった?

「えへへ、、1兆円突破!」

「ひえ~勇気あるね、全部つぎ込んだの?

「だってはずれは一個も無いから増えたらまた全部次へって」

「あらまあ、大胆だ事。」

「あかあさんはそのまま沢田産業にいてもらおうよ。ね?」

小さい声とはいえ沢田社長も微笑みながら聞いていた。

「社長、サニックスホールディングスの誰一人リストラも左遷も更迭も

致しません、社員全員がやる気を出して世界と戦える会社にしましょう!!」

「う・う・う・山中さんが見つかって本当に良かった・・・う・う・う」

「泣かないで下さいよ。見つけてもらったのもリーマンのおかげですね、

十億の損失くらいすぐ取り返します、安心して下さいね」

「ところで美香ちゃんはすてきな旦那様見つけた?」

「ああ、こらぁ~、私は課長が今日見つかるか、明日見つかるか明後日か。

って追っかけてたんですよ、恋愛なんて暇がありますか?おいおい!

責任取れ!!」

「う~ん、そうか、そんなところでも迷惑かけてたんだ・・・」

「あたりまえっしょ!もう。ぷんぷん。」

「ようし!そうと決まったら今夜は20年ぶりのすき焼きするぞ、ね、おかあさん!」

「そうね、山中さんご都合は?」

「ぜんぜん空いてます、是非ご馳走して下さい!」

僕は杉並の村瀬家に招待されたが、車で移動中、事の成り行きの

核心部分だけ内田に説明した。明日からの共同経営の件だ。相変わらず

なぜそうなったか、理解は出来ないようだが喜んではいるみたいだ。

タクシーの後部座席真ん中に座った美香が頭を僕の肩に乗せている。

母親も充分視界に入ってるはずなのににこやかな表情を崩さず

じっと前を見ている。

立派なマンションに到着し、母親、いや沢田社長を先に下ろした後

美香も降りるために後ろ向きになったが、その背中を捕まえ

振り向かせた。

「ねえ美香ちゃん、これからする僕の話し信じて貰えるかな?」

しばらくして、僕ら三人は井の頭公園を見下ろす少し広めのマンションを

購入して一緒に暮らし始めた。

表札には山中美香の文字もあった。

                             完     2010/0314

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コメント

ハッピーエンドおめでとう!!

これで、1000万読者からの催促の

プレッシャーから逃れられるね

しばらくは法悦のときかしら・・・

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